やさしいFTIRの原理(7)FTIRの測定可能波数域

コラム

使用する光学素子により変わる測定可能波数域

やさしいFTIRの原理(1)FTIRとは」の項で「FT-IRとは化合物分子の赤外線吸収を利用して化合物を定性・定量する測定法であり、分子の伸縮・変角振動の運動エネルギーに相当するエネルギーが吸収され、特に赤外線の領域で吸収ピークが現れる」と説明しました。また、FT-IRは一般的に 2.5 - 4μmの中赤外領域の測定に適用されます。

 

ところで赤外線を吸収する赤外検出器には「分光感度」というものが存在します。分光感度とは感度の波長依存性で、一定量の入射光強度に対する応答で表されるものです。応答が入射する赤外光の光子数に関係する(「量子型」)と呼ばれる赤外検出器では、単位入射強度に対する応答が以下のように量子過程で決まるあるカットオフ波長以下で波長に比例して減少する曲線になります。FT-IR測定においては測定したい化合物のピークが赤外検出器の分光感度域内にあるかをまず確認しなければなりません。

分光感度図

分光感度図は、「JUDSON TECHNOLOGIES」のWebサイトより引用

例えばMIDAC社製FT-IRガス分析計がよく利用されている半導体業界ではCVD、エッチャーなどの半導体製造装置および除害装置ではPFCガスの測定が中心となっていますが、これらPFCガスの固有ピークは波数が800cm-1~1500cm-1(波長12.5μm~6.67μm)のレンジに多く見られます。COやCO2などのカルボニル基が含まれている化合物は波数2000cm-1(波長5μm前後)に、ハロゲン化合物(HF、HCl、HBr等)はより高波数域側(2400cm-1~4200cm-1)にピークが立ちます。そこで波数域650cm-1~4500cm-1の光に対して感度を有するMCT検出器 [組成がMercury(水銀)、Cudmium(カドミウム)、 Tellurium(テルル)である半導体素子により入射光に対して応答するタイプの検出器] というタイプの検出器が最もよく使われます。

しかしMCT検出器は液体窒素で冷却しないと感度が出ないタイプの検出器であるため、FT-IRを客先に輸送して客先で測定される方ですとお客様に液体窒素を準備してもらうのに気が引けるという方もいます。そういった方には常温でも検出可能なDTGS検出器 [Deuterium Tri-Glycine Sulfate トリグリシンサルフェイトの水素原子を重水素に置換した焦電検出器] を使うという選択肢もあります。ただしDTGS検出器は応答速度が遅くシグナルノイズ比も低いので、これらを承知していただいた上でのご使用となります。

また、MCT検出器ではハロゲン化合物側の感度が低くなりますので、ハロゲン化合物を感度よく測りたい方にとっては不向きな検出器です。

このような方には、波数域2500cm-1~6000cm-1に高い分光感度を持つ電子冷却式MCT検出器 をお薦めしています。一方検出器の分光感度(特定の波数の光に対する感度)だけでなく、セル窓および干渉計ビームスプリッタに用いられる光学素子の材質にも波数に応じて光の透過性が変化するため、弊社でも適切なものを組み合わせてお客様に提案しております。

光学素子の透過率比較表
MeasurableWaveRange.pdf
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(1)FTIRとは?

(7)FTIRの測定可能波数域